有福温泉の老舗旅館「ありふく よしだや」の若女将、佐々木さんはUターンされて旅館を継ぎました。有福の街を再興し、次の時代にもよしだやを残していきたいと語る佐々木さん。メディアなどにも頻繁に出演し、積極的によしだやの存在を世に打ち出しています。この街を、旅館をどうやって活性化させていくのか、そのビジョンを伺います。
―若女将になる前は東京で働いていたとお聞きしました。
そうですね。大学生から東京に出て、卒業後は警察官として働いていました。有福には1年半前に戻って来たんです。
―東京から島根に、警察官から旅館の若女将に、場所も仕事もガラッと変わりましたが、戻って来たきっかけはありますか?
きっかけは父の体調不良です。東京にいた頃は旅館の後継者には兄がいるし、今の生活が楽しいから私はこのまま戻らなくていいやって思ってたんです。でも兄は旅館を継がず海外に行ってしまい、後継者不在の中、父が体を悪くしてしまって。家族に何かあった時、私がすぐに駆けつけられるように島根に戻って来ました。警察官という仕事や仲間が大好きだったので、ずっと続けたかったし、旅館を継ぐ気はなかったです。
―そこから若女将になる、旅館を継ぐという決意はなぜされたんですか?
仕事が休みの時は、旅館の手伝いをしていたんですが、働いていると有福の街の活気のなさがすごく伝わってきて。やっぱり生まれ育ったこの旅館は好きだし、この街には小さい時から可愛がってくれたおじいちゃんおばあちゃんが沢山います。
でもこのままではみんなが愛してくれたこの旅館も、好きな人たちが生きるこの街も、全てなくなってしまうんではないかと感じました。そういった現状を目の当たりにして、旅館を、この街を、なんとか守りたいと思い旅館を継ぐ決心をしたんです。
―強い想いを持って若女将になられたんですね。旅館の仕事は楽しいですか?
私は人が好きなので、毎日いろんなお客様とお会いできる旅館の仕事はとても楽しいです。よしだやはお客様に対して女将やスタッフ、みんなで協力しながらチームプレイで接客しています。最初は一人で対応してても横からベテランのお姉さんが来たり、奥から女将さんが来たりとか、まるで漫才みたいなんです。その姿を見てお客様も笑顔になっていただいています。そういった和気藹々とした雰囲気がよしだやの魅力の一つですね。
―すごく楽しそう!女将さんもまだまだ現役なんですね。
私の倍生きているのに、なんであんなに動けるんだろうっていうくらい働いています(笑)女将さんはお客様との距離を縮めるのが上手くて、気づいたらみんな友達になっちゃうんです。だから女将さん目当てで訪れるお客さんも多いんですよ。間近でその姿を見ていて、すごいなと感じるとともに、多くのことを学ばせてもらっています。
―尊敬できる人が身近にいるのはすごくいい環境ですよね。接客する際に心がけていることはありますか?
お客さんと打ち解けるためにどうやって笑わせるか、そればっかり考えています(笑)私たちが食事をお部屋に運ぶと、それまでは家族や仲間内で楽しく話していたのに、急にシーンとなっちゃうんです。
だからなるべく楽しい雰囲気を崩さないように、お客様の会話に自然と入り込んでいけるように心がけています。
―笑いの腕は上がってきましたか?
私は全然(笑)でも女将さんやベテランのお姉さんはすごいです。お客様も私たちもいつも大爆笑しています。だから職場は本当に楽しいですし、笑顔があふれていますね。集中する時はちゃんとしていますが、あとの時間はみんな楽しみながら働いています。
―笑いが絶えない職場っていいですよね。話が変わりますが、別会社でよしだやの温泉を活用した化粧品の製造販売をしているとお聞きしました。そちらは若女将が立ち上げたんですか?
10年前から女将が温泉水を使った石鹸とミスト状の化粧水を作っていました。特にミストは評判が良くて、すぐ在庫がなくなるような状態だったんですけど、製造元の関係で販売がストップしていたんです。
せっかく人気がある商品なんだから、ブランド戦略やビジョンをしっかり定めてもう一度事業を展開しようと話し合い、スキンケアの会社を起こしました。商品はまだ準備中ですが、ミスト化粧水から、美容液など、幅広く展開しようと思っています。兄はイギリスにいるので、将来的には海外展開も見据えています。
―様々な方法でよしだやを、有福温泉を広めていかれるんですね。最後によしだやのビジョンを教えてください
何百年と続くこの旅館を、次の時代へ守っていきたいと思っています。そのために、お客様一人ひとりを大切にして、多くの方に足を運んでもらえる旅館を目指していきます。また、温泉街には食事を楽しめるお店が今後増える予定なので、旅館だけでなく温泉街全体で盛り上がっていきたいですね。