若女食品 株式会社

島根県 江津市

食を通じて暮らしを豊かにしたい

代表取締役社長 住田 真一さん

島根県江津市で創業100年を超える食品製造会社「株式会社若女食品」。日本全国に商品を届け、多くの方の食生活を豊かにしてきたこの老舗企業は、海外展開という新たな局面を迎えています。

今回はその立役者である5代目社長の住田さんに話を聞きました。グローバルな仕事をしたい方は必見のインタビューです。


―事業内容を教えてください。

当社は創業した1907年からずっと魚肉練り製品を中心に食品製造を行ってきました。私で5代目です。

江津の企業ではありますが、商品は日本全国だけでなく、海外にも出荷しています。競合企業が多い業界の中で、当社がこれまで事業を継続できたのは商品の開発力があったからです。これまでになかったもの、製造が難しい商品の製造を行ってきました。

―どのような商品開発したんですか?

最初に開発した商品は“わかめかまぼこ”です。当時の江津は物流が悪く、日持ちする商品が求められていました。そこで日持ちする“わかめかまぼこ”を開発したんです。

現在は製造しておりませんが、最終的に地元のお土産としても愛される商品になりました。

また、業界で初めて開発に成功した“フライコキール”という商品もあります。フライコキールは白身魚のすり身を貝柱に見立て、ホタテ風味に味付けした貝柱風味蒲鉾です。

手軽な値段で本物のホタテ顔負けの味・食感が楽しめる商品です。フライコキールは取引先を全国に増やす大きなきっかけにもなりました。

貝柱さながらの食感を楽しめるフライコキール

 

―独自商品を生み出すことで成長してきたんですね。

最近では冬の鍋商材の「生つみれ」という商品を開発しました。「生つみれ」は鍋に入れて初めて加熱される事で、ふわふわとやわらかな食感が楽しめます。

管理の難しさから同業でも販売している会社は少なく、管理体制がしっかり構築されている当社ならではの商品です。

このようにフライコキールや生つみれといった様々な商品を生み出してきた当社の開発力は都会の大手企業にも負けないと自負しています。

また、お客様から商品開発の要望をいただけば、その開発力を駆使して他社よりも早く商品化を行なってきました。

こうした開発力とスピーディーな対応能力が当社の成長を支える原動力です。

生つみれ鍋

 

―住田社長の経歴を教えてください。

若女食品に入社する前は5代目社長として会社を継ぐために、食品関連会社2社で働きました。

1社目は福岡の冷凍食品を取り扱う会社の工場で最新の機械などについて学び、2社目は東京の鰹節を販売する会社で営業経験を学びました。そこで学んだことが社長就任後も活きています。

―修行期間を得て社長に就任されたんですね。就任後にどんなことへ取り組みましたか?

私が社長就任してから取り組んだことは社内設備への投資と海外への輸出強化、安心安全への取り組み、働く環境の整備の4つです。

社内設備投資では1億円以上するロボットを導入しました。食品会社の中でも冷凍食品などは工場の機械化が進んでいるのですが、それに比べて当社は機械化が進んでいなかったんです。そこで効率をあげるために導入しました。

―次に海外への輸出について教えてください。

当社では現在海外への輸出を増やしています。海外は人口も増えていますし、経済も発展しているので伸び代が大きい市場です。意外かもしれませんが、海外では食品として魚肉の評価が上がっています。

魚肉はヘルシーで健康的、畜産とは違い自然環境への負荷もない、宗教や思想の関係で食事に制限がかかっている方でも食べることができるといった背景があり、豚肉や牛肉、鶏肉にはない特徴が評価されています。

また、日本は寒い時期に鍋を食べますが、海外の暖かい地域では衛生環境が悪い時代の習慣で、時期を問わず食品に火を通して食べる文化があります。そのため日本と違い、年間を通して鍋を食べる風習があるんです。

―魚肉練り物を扱う若女食品にとって海外はチャンスが豊富な市場なんですね。国内企業が海外展開に取り組むことは難しくないですか?

当社の海外売り上げは伸び続けていますが、失敗されている同業者が多いのも事実です。失敗してしまう原因は、国内で販売している商品と同じ味でも売れるだろうと過信していることだと思います。

やはり国ごとに味覚や考え方が違うので、現地のニーズに合わせた食品でなければ売れません。当社は現地の協力会社と徹底的に味を分析し、地域の方に受け入れてもらえるように商品開発をします。

現在は韓国への輸出が多いですが、今後は台湾やシンガポール、東南アジアの方に販売を広げていく予定です。

―安心安全への取り組みを教えてください。

当社では合成保存料や合成着色料などを使わずに、消費者の方が安心して食べられる商品づくりを心がけてきました。

その一環として衛生管理の面から食品安全管理を実践するための国際認証規格ISO22000(2018年度版)も取得しています。

今後は海外への輸出を強化するために、より厳しい国際認証規格FSSC22000の取得も目指しているところです。

最近では海外への輸出を行う際に、その規格を取得していないと輸出できない国もありますし、国内でも取得していない企業の食品を取り扱わない取引先も増えてきています。

―安心安全な食品作りが当たり前に求められる世界になっているんですね。

食品を取り扱う会社にとって、安心して食べられる商品を提供することは使命でもあります。安全な食品が多いと言われる日本でも、過去には食品に異物を混入させた事件がありました。

そうした事故や事件を防ぐために、厳しい基準を設けるのは当たり前のことです。お客様に当社の商品を安心して買ってもらうために、厳格なルールを敷いて、安心安全な食品製造を行っていきます。

―今後の課題を教えてください。

働き手が少ない地域なので、地域内だけじゃなく県外からも人を集めることのできる魅力的な会社作りが必要です。

当社が魅力的な会社になり、県外から人が集まるようになれば人口増加にも貢献できると考えています。

―希望する人材を教えてください。

特別なスキルは求めていません。品質管理のような部署ならば専門の技術を身につけてもらいますが、実務に必要な資格は入社後に取得できます。

求めるのは素直さ、前向きさをもっていることです。どんな仕事をしていても前向きに仕事に取り組み、他人からのアドバイスを素直に聞ける人が成長できますね。

―入社後の流れを教えてください。

最初はマナー研修など、社会人として最低限学ぶべき研修を受けてもらい、その後は工場で製造の仕事をしてもらいます。

そこで製造の流れを一通り覚えた後に、そのまま製造として働くか、開発や品質管理、営業といった職種に就くのかでキャリアが変わる仕組みです。

開発や品質管理といった専門職の場合は配属後に必要な資格を取得してもらいます。配属先の希望があれば可能な限りその通りの配属を行うので、要望があればぜひ相談してください。

―ビジョンを教えてください。

地域に根差す企業として、地域貢献に力を入れていきます。当社の考える地域貢献の方法は県外で利益を生み、それを地域に還元するというものです。

実は当社の取引先に島根県はほとんどありません。売り上げを生み出すためには人口の多い県外や、海外で商品を販売した方が効率はいいんです。

そうして生み出した売り上げを、税金や、雇用の創出、地元からの仕入れといった面で還元するようにしています。

―仕入れも県内で行っているんですね。

実際は海外から仕入れたほうがコストは安いのですが、なるべく県内の漁業者から仕入れるようにしています。

底引き網という漁法の場合、その地域であまり食べられていない魚や、小さすぎたり傷がついて商品にならない魚も獲れてしまいます。そうした魚は海に戻せないので、通常は廃棄処分されてしまうんです。

当社ではそうした魚を買い取り、一部の商品に使用しています。海の資源には限りがあるのに、そうした魚を廃棄することは資源の無駄遣いですよね。

また、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた漁師さんの収入を支えられればという思いも持っています。

―食品業界は新型コロナウィルスの影響を大きく受けていますよね。

漁師の方だけでなく、当社のような食品製造会社や卸先の外食産業など、食品に関わる様々な業界で新型コロナウィルスの影響を大きく受けました。しかし、当社ではこの節目をチャンスと捉えています。

当社以外の会社も影響を受けている今だからこそ、やり方一つで今まで不利だったことを有利に変えることもできるはずです。

例えば、島根本社の当社は都会の会社と比べて営業にかかる費用や時間がネックでしたが、ビデオミーティングツールの普及により、多くの方と商談機会を得ることに成功しました。

仕掛け方一つ変えれば業界大手にも追いつける機会が今だと考え、前向きに挑戦し続けています。

―最後に学生へメッセージをお願いします。

海外にも多くの取引先を持つ当社は島根県にいながら、世界70億人を相手にスケールの大きな仕事ができるという魅力があります。

こうした仕事は特別な能力やスキルが必要だと思われるかもしれませんが、食品業には絶対に必要な資格というものがありません。

スキルがない方でも第一線で活躍できる可能性が高い仕事なので、やる気を持って入ってくれる方ならば大歓迎です。

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