株式会社 玉造温泉まちデコ

島根県 松江市

温泉街再興の立役者

代表取締役 角幸治さん

「普通の会社と違って、売上を求めるために働いているのではなく、理念を達成するために働いています」と言い切るのは代表取締役の角幸治さん。15年前、危機的状況にあった玉造温泉を活性化させるために立ち上がった角さんに、その経緯や手法を詳しく伺いました。


 

会社の事業内容を教えてください。

株式会社玉造温泉まちデコは、神社のプロデュース事業、温泉コスメ「姫ラボ」、地元野菜をつかったスイーツやご当地グルメなどを販売している「美肌マルシェ」、手作り雑貨やカフェが入った複合施設「玉造アートボックス」など幅広く事業を展開しています。

仕事内容が幅広いですね。化粧品から不動産まで幅広く行っている理由はありますか?

私たちの仕事は、お客様に「玉造温泉に来て良かった・また来たい・誰かに紹介したい」と思っていただくことです。その理念から外れていなければ、何をしても良いと思っています。

例えば、小さいことかもしれないですが、接客の際に笑顔で明るく挨拶をして、お客様が「玉造温泉に来て良かった・また来たい・誰かに紹介したい」と思っていただいたのならば、それは私たちの仕事の1つと言えるのです。

この想いは、事務所のスタッフ、店舗のスタッフ、全てのスタッフに共通しています。ですから、接客の時だけでなく、電話対応の際も電話して良かったと思っていただけるように、言葉遣いや、明るく対応することを心がけています。

通販では、直接お客様とお会いできない中で、注文して良かったと思っていただくために何をしたら良いかを考え、手書きのメッセージカードを送るようにしています。これは、自発的にスタッフが考え、取り組み始めたことなんです。新規・リピーター・お誕生日の3種類のカードに手書きでメッセージを書き、商品と一緒に発送しています。

もらう方は嬉しいと思いますが、手書きのメッセージは非効率的ではないのですか?

お客様に「玉造温泉に来て良かった・また来たい・誰かに紹介したい」と思っていただけるのであれば、効率的かどうかは関係ありません。

しかし、自分たちで感謝の気持ちを伝えるために始めたことで、自分たちが増えすぎた業務量に苦しむのは違うと思うのでスタッフで分担をして1人最大20枚くらいに抑えています。

なるほど。理念を達成するための事業展開であり、業務内容ということですね。

そうです。私たちは、化粧品を売りたくて会社を立ち上げたわけではありません。15年前、ゴーストタウンだった玉造温泉をなんとかしたいという想いから会社を立ち上げました。ただ、私は熱い気持ちをもっているわけですが、組織化する中で、その思いが薄まっていったり、分からなくなっていったりすることがあるんです。だから想いを薄めない為に、経営理念を仕事にしたんです。

あくまでも、私たちのゴールは、お客様に「玉造温泉に来て良かった・また来たい・誰かに紹介したい」と思っていただくことであり、その手段として店舗があったり通販があったりするわけです。

その理念のきっかけである玉造温泉ですが、15年前はどういった状況だったんですか?

今では考えられないと思いますが、15年前の玉造温泉は、ほとんど人が歩いていない状況でした。宿泊者数は毎年5%ずつ減少していましたし、温泉街には空き家が増えていました。

このままでは1300年も続く歴史ある温泉街が無くなってしまい、旅館やこの町自体が潰れてしまうんじゃないかという大きな危機感を覚えたんです。

そこで、玉造温泉やこの地域のために役立ち、歴史あるこの土地に再び活気を取り戻したいとの想いから「まちデコ」を創業しました。「まちデコ」はまちをデコレーションするといった意味で、旅館の社長たちとお金を出し合って作った会社なんです。

いろんな社長から出資を募って立ち上げるには相当な苦労があったと思います。なぜ、そこまでして玉造温泉を活性化させたいと思ったのでしょうか?

恩返しのためです。実は26歳の時、ブライダルの仕事でリストラを経験し、ひどく落ち込んでいたところを半ば拾われるような形で玉造温泉の旅館で働き始めました。そのような状況の中で、その旅館で骨をうずめようと頑張りました。

ただ、当時26歳だった私に仕事を教えてくれたのは19歳の女の子。それが辛かったです。ですが、自分は何もできないんだ、ちゃんと教えてもらわなければと思い頑張りました。

心が入れ替わったのは、この時からですね。それまでは、何を言われても自分の方が正しいと思ってしまうような性格で、それがリストラの理由でもありました。

でも、旅館で働いている時は、自発的に人より30分早く出社して掃除をしたり、積極的に他部署にヘルプに行ったりしていました。周りからは取締役になるのではないかと言われるほど愚直に働いて、職場からの信頼を得ていったんです。

すごい

そしてある時、旅館のPRのために広告宣伝費として500万円くらいの予算を任され、旅館の宿泊者数を増やそうと試行錯誤した年がありました。懸命に取り組んだんですが、前年度比の100.1%という結果しか出せず、失敗したなと思いました。

ところが、なぜか社長や周りのスタッフから賞賛されたんです。話を聞くと玉造温泉全体では92%で、売上は激減していたんですね。良かったと安心しつつも、これから旅館や玉造温泉はどうなっていくのだろうかと心配に思いました。

その経験から、1つの旅館が頑張ってもどうにもならない事態が玉造温泉に起きているんだと実感したんです。だから、まずは旅館よりも温泉街を再生させないと、全てが共倒れしてしまうと考え、当時働いていた旅館の社長と3ヶ月間話し合った末、旅館を辞めて会社設立を決めました。

ドラマがすごい創業後のことも気になります。やはり苦労したエピソードってあったりしますか?

創立してから1年半、軌道に乗る前ですね。言ってしまえば倒産の危機がありました。いやーこの時は本当に辛かった。旅館の社長たちから預かった出資金600万円が、30万円になってしまったんです(笑)

展開が早すぎませんか?その当時は、どういった事業に取り組まれていたんですか?

商品開発と販売です。温泉の成分を使った化粧品が、他の温泉街で成功した話を聞いて、玉造温泉でも成功するだろうと思い、「玉造キラキラみすと」の販売を手がけました。

しかし、商品の売り方が悪く、全く売れなかったんです。その結果、商品の在庫を大量に抱えてしまったのです。

そこからどのように持ち直したのでしょうか。

実は、キラキラみすと以外に、玉作湯神社のプロデュース事業として、願い石・叶い石をやっていました。そこに、東京の女性セブンから願い石・叶い石を雑誌に載せたいという電話きたんです。

その雑誌の影響で叶い石の売上が、なんと約10倍になりました。売上は翌年も翌々年も増え続けていき、今では年間約6万個売り上げています。こうして、倒産寸前だった会社も、なんとか持ち直すことができました。

よかった。この窮地を乗り越え、今では人気商品を次々と生み出していますが、さらに今後の展望があれば教えてください。

緩やかな発展ですね。急成長は良くないと思っているので、理想は108%です。この108%が無理ないところだと思っています。

例えば、テレビの取材などで注文数が一気に激増することがあるんですが、うちではスタッフが無理なく潰れないような発送スケジュールを考えます。売れば売れるほどいいわけではなく、スタッフみんながずっと幸せであるための数字が108%だということですね。

もし数字が大きければ、お金はたくさん入ってくるとは思います。しかし、対応が雑になることで、お客様に「玉造温泉に来て良かった・また来たい・誰かに紹介したい」と思ってもらえなくなったりするかもしれない。それは私たちの目指しているところではありません。

そこにも、理念が生きてくるんですね。最後に、一緒に働きたいような人材はどういった方ですか?

その時々によって変わるものですが、今は自己肯定感が高い人ですかね。自己肯定感が高い人は仲間としてうまくやっていけると思っています。

例えば、褒められた時に「ありがとう」と答える人と謙遜して「そんなことないとない」と答える人がいますが、謙遜しすぎると、せっかく相手が伝えようとしているのにそれを遮断してしまうことになります。すると相手側は伝えようとしなくなってしまう。気を使ってしまうんですね。だから素直に「ありがとう」と言える人がいいです。

それと、決して能力は高くなくて良いです。うちはフリーミッションに近い会社なので、行動力があって積極的な社員も多いんですが、そうではなく1日中コツコツと作業をするのが得意な社員もいます。

両方大切なのです。両方が補い合い、うまくバランスを取り合うことで、会社はうまく成り立っているんですから。

スタッフの誇りを作り出す