認定こども園まどころナーサリースクールは「逞しく、優しく、思いやりのある人間づくり」を目指し、独自の活動を行なっています。園長の石橋さんに、この言葉に込められた想いと、子供達がどんな成長した姿を見せてくれるのかを教えてもらいます。子供と触れ合う仕事に就きたいと希望される方には是非読んでいただきたいインタビューです。
—事業内容を教えてください。
まどころナーサリースクールは創立して40年近くになります。うちはもともと認可外の施設でしたので、認定こども園の制度が変わったタイミングの平成29年に法人化しました。現在は認定こども園の運営と学童保育の事業を行なっています。スタッフが僕も含めて19名在籍しており、74人の子供と学童に通う18人、約90名の子供達のお世話をしています。
—認定こども園って普通の幼稚園や保育園とは違うんですか?
認定こども園は、幼稚園と保育園の両方の機能を併せ持った、いいとこ取りの施設だと思ってください。子供を預かるという意味ではやっていることはほとんど一緒なんですが、認定こども園は縛りが少なく、どんな活動をするのか各園に任せるよっていうスタンスなんです。
それ以外にも幼稚園は子供を預かれる時間が原則4時間なのに対し、認定こども園は最低でも6時間預かれますし、保護者の方が仕事や急な病気を理由に、長く預かってもらいたいと言われても対応できます。お仕事に行くようになっても子供を幼稚園部門から保育園部門に変更し、継続して預かることができます。保護者にとっても子供にとっても、同じ環境で育つことができるのでメリットが大きいです。
—まどころナーサリースクールを立ち上げたのは石橋さんのお父さんですよね。どういった経緯から立ち上げたんでしょうか。
父は広島で働いていたらしいんですが、周りに変わった取り組みをしている園があったらしく、同じことやろうと思い脱サラ。地元の益田に帰郷してまどころナーサリースクールを立ち上げたらしいです。僕は、短大出てすぐこっち帰ってきて、保育士としてここに入職しました。25、6歳で園長を継いだのでしばらくは大変でしたね。
—かなり若い頃に継がれたんですね。石橋さんが園長に就任されてから新しく始めたことはありますか?
「森のようちえん活動」を取り入れました。森のようちえんとは、自然の中での体験を通して、豊かな感性や、自分で考え行動する能力を育んでもらうという活動です。益田市は自然が豊富ですから、週2回海山川に出かけて、自然の中で活動をしています。
遊び道具も自然の中にあるもののみ。雨が降れば降ったなりの活動をしますし、暑ければ暑いなりの遊びをします。季節や天気によって子供達自身に考えてもらいながら活動してもらうんです。
―なぜ森のようちえん活動を取り入れようと思ったんですか?
時代によって子どもたちの姿はガラッと変わるんです。園長に就任してから、僕らの時代の子供たちと比べると今の子供達って、自分で色々見つけたり考えたり、自分でやってみようとチャレンジしていく自主性の部分がすごく弱くなってきていると感じました。
今は何でもある時代。ものは飽和してる状態だし、時間も潤沢にあるし、だからみんな余裕がありますよね。そういう時代なのでしょうがないと思いつつも、ただもっと厳しい時代になったときに、この子たちは不幸になってしまうんじゃないかと思い始めたんです。そこで子供達の生きる力を少しでも強くしたい、伸ばしてあげたい、そう思い森のようちえん活動を始めました。
―森のようちえん活動は子供達に大きな変化をもたらすんですか?
すごく変わりますよ。保護者の方は子供の変化にすぐ気づくので「子供がすごい変わった!」「歩いとっても抱っこしてって全然言わなくなった!」「子供が元気になりすぎて、逆にこっちが追いかけていくのが大変だ!」と、たくさんの驚きと、喜びの声を頂いています。
―でも森の中に入ったりするのは危険とか多くないんですか?
子供達の力を伸ばすために取り組んでいますが、やはりリスクはあります。だからこそリスク管理は徹底しています。職員は森のようちえん活動に際して研修もしていますし、子供自身にもリスクマネジメントができるようにしてもらうんです。
この間もマムシを捕まえて、子供達に生のマムシを見せながら、危険性や対応方法について説明したんです。他にも蜂がおったらどうするとか、熊が出てきたらどうするとか、想定できるリスクは全て子供に説明し、一人ひとりにリスクマネジメントを覚えてもらいます。
森の幼稚園の活動を初めて8年目になるんですけど、縫うとか骨折とか大きな怪我は全くないんですよ。毒蛇に噛まれたこともないし蜂に刺されたこともない。運がいいだけかもしれませんが、やっぱり子供自身が外で動くことで筋力がついてくるし、反射神経も良くなっているんで、怪我をしにくくなってるんだろうと思います。
見学に来る人もこんなところで遊ばせるんですかって驚いてしまうくらいの自然の中で活動してるんですが、子供自身はそういったところで開花するんですよね。フィルターが完全に外れて、自分達で考え、どんどん行動を起こしていきます。先週も1153 M の山を子供たちと一緒に登ったんですけど元気いっぱいですよ。園の周りを360度囲んでいる山は全部登ってしまいました。
―保護者の方もみなさん応援してくれているんですか?
そうですね。保護者の方も私たちの育て方を認めてくれていますし、リスク管理をしているのも知っているので応援してくれています。うちは入園前に必ず1時間くらい、どんな風に子供に育って欲しいと考えているのか、そのためにどんなやり方で活動しているのか、うちのスタンスを説明するんです。保護者さんとゆっくり話をして、全てを理解してもらった上でうちを選んでもらえるようにしています。
—それだけ説明されていれば保護者の方も安心ですし、想いを共有することで先生方への信頼度も上がりますよね。子供を育てていく中で、どんな時にやりがいを感じますか?
子供たちは私たちにたくさんの笑顔や元気をくれます。それがやりがいですね。本当にこの仕事が好きだから後何十年もやりたいと思っています。やっぱり子供達の持つエネルギーって大きいんです。そのエネルギーを隣で支えて育ててあげたり、触れられることがこの仕事の醍醐味なんじゃないかな。
卒園式の時には保護者の方から「ありがとうございました」って感謝されるんですが、やっぱりお互いに泣いてしまうんです。小さい頃から一人ひとりの思い出をどうしても思い返してしまうんですよ。この子は大変だったけど、こんなに成長してくれたんだ、ほんと良かったなって。それがまた何十年も経つと今度はお父さんお母さんになって「先生、子供をまどころナーサーリースクールに預けたいんです」って教えた子が帰ってきて。子供達にとってもここは実家のような存在で、私たちは家族のようにつながっているんだと思います。そうしたサイクルが続いていることは本当に幸せです。
—本当に子供のことを想っているんですね。きっとここで働く先生も子供たちも本当に笑顔が絶えない環境なんだと思います。より良い園を運営しようと思った時に、現在抱えている課題はありますか?
私は職員全員に一流の先生になってほしいと思っています。そのためにどうやって成長を手助けできるか、それが課題です。
—そういった課題の中で、若い先生に対してはどんな指導をされているんですか?
入職された先生には、まずここで必要とされる人間になりなさいと言っています。1年目の最初の6ヶ月間は毎日元気で出勤してもらい、6ヶ月過ぎた時からどうすれば職場で必要なとされる人間になれるのか、自分で色々考え、行動してもらうようにしています。その中で、若い先生には自分なりのやりがいを見つけてもらいたいなと思うんです。
—では、これからのビジョンはありますか?
私は園の規模を今より大きくしたいと思ってません。昔はピーク時で子供が210人ぐらいいたこともありますが、その規模になると今の活動がうまく回らなくなってしまうんです。だから現在の40人前後という人数がちょうどいいんだと思います。今後も人数をキープしながら、益田の自然の良いところを活用して、子供たちに自然の心地よさや気持ち良さを知ってもらいたいなと思います。
事業拡大に興味がないって言うと、よく無欲だと言われるんですが、僕はお金儲けよりもここで人間を育てるのが一番楽しいんです。だから人を育てたいっていう気持ちを今後も大事にしていきたいと思っています。ここで育った子供たちが将来、就職する時に益田の生活は良かったなとか、子供が出来た時に自分の子供も同じように益田で育てたいなって感じてもらえれば最高ですね。それが僕の考えるビジョンです。
―とても石橋さんらしいビジョン!これからもこの場所から多くの子供がたくましく、優しく成長していくんですね。最後に、どんな人一緒に働きたいか教えてください。
今まで話したことに共感し、同じ方向性で働ける人がいいですね。子供のことや保育のことを考えると一日中悩んでしまうくらい、真面目で子供好きな人はきっと楽しく働けます。
あとは向上心がある人間もとにかく好きです。職員から新しく行きたい場所があるんですって提案を受けたら、まずはやってみなさいって背中を押しています。そうやって行動していくことが大切なんです。そういった人と、一緒にいい園を作って行きたいなと思います。