お話を聞いたのは株式会社コミュニティケア代表取締役の中澤さん。訪問看護や地域での病気の予防活動、地域活性化にも取り組んでいます。2016年に起業し、現在もさらに大きな目標へ向かい活動するコミュニティケア(以下、コミケア)。その起源と原動力について教えてもらいました。
―最初にコミケアの現在の仕事内容事業内容を教えてください。
事業内容は大きく二つあります。一つは訪問看護事業です。訪問看護は病気の方や、障がいがある方など医療的ケアが必要な方の自宅に訪問して、看護やリハビリを提供するサービスです。コミケアには、看護師とリハビリを提供する療法士が11名在籍しています。医療行為を提供するためには、お医者さんの指示が必要なんですが、コミケアにはお医者さんは在籍しておらず、地域の開業医さんや病院から指示をもらって、ご自宅に訪問しサービスを提供しています。
もう一つが、コミュニティケア事業です。コミュニティケア事業では医療的ケアの手前の段階の病気の予防に取り組んでいます。今は社会との繋がりや、日常を笑顔で過ごすことなどが私たちの健康にとって良い影響を与えていることがわかってきています。そのため、私たちは人が繋がれる場づくりや、地域の中でケアし合う環境づくりに取り組んでいます。コミケアの事業所は、地域の世代間交流施設の一角にあるんです。ここで私たちは月に1回サロンを開催して住民と交流したり、健康相談を受けたり、季節柄の健康情報をお届けすることで、日常から健康になるための支援をしています。その他にも、他の地域や企業に出かけたりと、活動を広げています。
こうした予防活動は収益化が難しい分野ですが、人が生まれて亡くなるまでの人生に伴走し、関わる一人一人が自分をケアし、周りの人もケアできる環境を作りたいと思っています。病や障がいがあっても安心して地域と人と関わり続けられ、幸せな瞬間や喜び、楽しみを生涯感じられる地域にしたいです。
―コミュニティスペースの一画に事業所があるんですね。会社を立ち上げようと思ったきっかけは何なんですか?
私は神奈川県出身なんですが、地元も過疎化が進んでいる地域ということもあって、昔から地域医療に興味があったんです。入院している患者さんの困り事や悩み事は、その人が生活している暮らしの中にあることが多いです。だから暮らしの中から、医療のあり方を学ぶことで、そういった悩みを解決できるんじゃないかと考えていました。看護師になってから、神奈川や広島の地域中核病院や、海外で地域医療に携わりました。その経験から、看護師が病院から飛び出して地域に入ることで、地域を元気にしていくことができる。そしてお互いにケアし合えるような環境を作れると思いました。また、そうした環境を作るには、医療福祉の人たちだけでなく、町の人たちと、そして教育や産業など地域の様々な分野の人たちと一緒に取り組むことが必要と考えました。
自分でもそういった環境づくりをしてみたい。そう思った時に雲南市が若者のチャレンジを応援していることを知ったんです。驚きだったのは、行政と地域住民、NPOなどがとても近い距離で協働し、様々な分野の人たちが地域づくりへのチャレンジをしていました。もちろん医療福祉分野でも、様々な人たちと手を結び課題解決のチャレンジをしている人がいました。その環境にすごく可能性を感じ、同じ想いを持つ仲間と出会い、周りの支援を受けながら創業したんです。
―起業となると相当大変だったのではないですか?
思った以上に大変した(笑)。最初は寝る暇もないくらい忙しかったですね。訪問看護って一人で利用者さんを訪問して、一人で判断しなくてはいけないので経験が浅い若手では無理だと言われていたんです。しかもここは中山間地域で、一軒一軒お家が離れています。開設当時は、市内に数カ所あった訪問看護事業者も訪問効率の悪さから撤退し、24時間対応の訪問看護ステーションが1箇所になっていたのです。
それもあって事業自体が成り立つのかという不安もありました。でも不可能を可能にしたいよねってみんなで話し、東京の訪問看護の事業者さんからノウハウを提供してもらい、情報管理の仕方など経営工夫を行ってきました。
最初は周りの反対や心配もありましたが、利用者さんがとても喜んでくれたり、応援して、支えてくれる方々がいてくれたおかげで創業できました。自分たちだけじゃ絶対できなかったと思います。
―現在訪問先はどのぐらいあるんですか?
利用者さんは年間140人ぐらいです。訪問看護は定期的に利用者さんのお家に通うのですが、去年は5000件ぐらいの訪問がありました。利用者さんは、高齢の方も多いですが、医療のサポートが必要な赤ちゃんや、難病の方、精神疾患を抱えた方など、0歳から100歳代の方まで様々な利用者さんがいます。
―かなり多くの利用者さんがいるんですね。他の事業者と違う大きな特徴というのは何でしょうか?
コミケアには、人と関わることが好きな人材が集まっているのが強みです。日々みんなでその人らしい幸せな暮らしに寄り添ったケアとはなんなのか、真剣に考えながら働いています。また、健康なうちからの病気の予防や、住民さん同士がケアをし合う地域のコミュニティを、地域の人達と連携して作っている、地域密着型のステーションであるのも特色の一つだと思います。
―中山間地域でこういったビジネスモデルを実現していくためには乗り越えるべき壁も多いと思います。現在抱えている課題はありますか?
全国で160万人の就業している看護師の中で、訪問看護師はまだ3%ぐらいしかいません。病を持ちながら地域で暮らしていくことを選択できる環境を作るには、これからもっと担い手を拡大して行かないといけないんです。特に地方では、東京などの大都市圏と比べると、訪問看護の担い手が少ないので、訪問看護の魅力を発信し、人材をしっかり育てていきたいと思っています。
―人材難を克服するために取り組まれていることはありますか?
国の方針としても在宅医療に力を入れているので、最近では看護学校でも地域や在宅看護の教育が手厚くなり、在宅医療に興味を持っている若い人が増えているんです。実際コミケアは20代から30代ぐらいの若い職員が多く在籍しています。
生活の中から、本人の楽しみや生きがいを大事にすることで生きる力を支えたい、子育てや自分のやりたいことにもチャレンジしながら働きたいなど、働く人、一人ひとりが輝けるような組織作りに力を入れています。
―人材を惹きつけるためにどんな取り組みをされていますか?
若い人に地域医療の面白さを伝えるイベントや、看護学生さんに地域のサロンを見学に来てもらったり、学校の授業として一緒に地域のコミュニティケアを考えたり、様々な取り組みをしています。イベントを通して、人と人との繋がりに可能性を感じ、地域医療の面白さに気づいてくれる人は多いです。
―どういった方が入社を希望されるんですか?
医療系を志す人は、治療を通して病気の方がその人らしい生活を取り戻し、幸せな日々を送ってほしいという想いを持っています。治療の方法は限りがありますが、暮らしの中で行う看護は100人いたら100通りのケアがあります。そんな一人ひとりに合わせて行うケアに新鮮さや、やりがいを感じて入社を希望される方が多いです。その人の価値観や暮らしに寄り添い、様々なライフイベントに伴走しながら、人生を支えることができるのがこの仕事の醍醐味だと思います。
―今後のビジョンはありますか?
私たちは病気の人もそうじゃない人も、赤ちゃんから高齢者まで、いろんな人が共生できる社会を作りたいんです。長く健康でいられるための予防医療もそうですし、病を持った人でも活躍できるような社会を目指します。現在は実現に向けた第一歩としてまちづくり協議会さんと連携して、子育てと仕事を両立しやすい環境を作っていこうと計画しています。
―とても大きな目標ですね。理想を追い求め、進み続ける原動力は何なんですか?
理想を描き、進み続けた先に実現される世界を見てみたい、その好奇心が一番の原動力です。興味を持って実現しようと思ったら、ここには同じビジョンを共有して一緒になって取り組んでくれる仲間たちがいますし、周りにいる方々は手厚くサポートしてくれます。そういった周りの環境が支えとなって、スローペースではありますが一歩一歩諦めずに進んでいけるのだと思います。
―仲間とビジョンを共有して一緒にやってこられたんですね。実際に事業を進めていく中でも周りと相談しながら進めて来たんですか?
みんなが経営会議に参加し、全員で会社の方針を決めています。私は代表取締役という肩書きですけど、この会社はみんなの夢を乗せて作っていきたいと思ってるので、みんなの声を事業に反映させています。今まで会社のミッションやビジョンもみんなで決めてきました。
―最後に、訪問看護の良さを教えてください。
訪問看護は、その人がその人らしく生きるためにはどういったサポートが必要なのか、一緒に模索しながら進んでいくのが仕事なんです。そこには人の生命力を最大化させるためにどうサポートするのか、そんな看護の本質があると思います。どう病と歩んでいくのか、私たちが提供できることは無限大にあるんです。
コミケアは「幸せな瞬間をプロデュースする」という理念を掲げています。これは看護に決まった形はなく、その人がどこで幸せを感じるのか、関係性の中から気づき、その瞬間を一緒に作っていくという、いろんなケアのあり方を表現しています。訪問看護は、みなさんが実現したいと願う、いろいろなケアのカタチを提供できる魅力的な仕事だと思います。