VRを使った安全教育という新しい分野を、まだ世の中にその存在が浸透していない時から真剣に取り組まれてきた株式会社三徳コーポレーション取締役の松田さん。その原動力や、試行錯誤を重ねる中でぶつかってきた壁、事業の成長など、情熱を持ってやり続けてきた松田さんだからこそ語れるものがありました。
—三徳コーポレーションはどんな事業を展開しているんでしょうか。
三徳コーポレーションは部品の加工販売やVR事業を専門とした商社です。近年はVR事業として安全教育シュミレーターRiMM(リム)の販売に力を入れています。
—VR事業に力を入れているのはなぜですか。
私たちの会社は、商社として様々な部品を中心に扱っていたんですが、良くも悪くも安定はしているけど成長もしない。そんな企業だったんです。そこで、成長の要として現在V R事業に力を入れています。私が転職してきたのは、このV R事業の前身となる3D事業の頃ですね。
—どういった経緯で転職されたんでしょうか。
会社から新しく3Dの事業をやりたいと誘われて入社しました。私は元々機械工学専攻のエンジニアとして、新しいことにチャレンジしたいなって気持ちはあったんです。しかも、ちょうどその頃に図面を設計、製図をするキャドの3D化がされて、結構汎用的に出回り始めた頃だったんです。しかし、その3Dデータは設計と製造のためだけに使って、それで終わり。そのあとの設計されたもののメンテナンスとか、使用マニュアルとか、二次利用には使用されていなかった。もっと有効活用できる方法はあるんじゃないかなと探っていた時期でした。
—それで入社を決意されたんですね。その後、3D事業に取り組まれてどうでしたか?
失敗の連続でしたね。2000年の頃は3Dで実現したいアイディアがあってもパソコンのスペックが低くて実現できないとか、お客さん側も3Dの活用に関してイメージを持っていないので、商品を作っても全く売れない時期が続きました。どこかに光明を見つけようと3D以外にもいろんな技術取り入れていきました。最近耳にするようなARの商品も実は2004年には手がけていたんです。かなり早くから導入しましたが、お客さん側から使い道がわからないと言われ売れませんでしたね。結局どれだけいいものを作っても、時代のタイミングやお客さんのニーズに合致していなければ売れないんですよね。
—そこから現在のVR事業に力を入れていくのにはどのような経緯があるのでしょう。
先見の明があっても、何の役にも立たない。あくまでも、技術は手段でしかないのに、技術だけにこだわってしまっていたんですね。まずは、一度技術を全て捨てて、人々に求められるものを作ろうと方針を変えました。そこで、目を向けたのが安全教育です。どの労働現場でも災害や事故の危険性と隣合わせであり、命を落としてしまうような事故も起こっています。こうした不慮の事故を減らすために、VR 体験を通して教育できないかと思いました。こうして出来上がったのが安全シミュレーター「RiMM(リム)」です。
—RiMMはどのようなサービスなんですか?
RiMMはVR体験を通して、事故や労働災害を擬似的に体験できる装置です。これはVRゴーグルをつけた視覚のみの体験だけではなく、視覚、聴覚、触覚、臭覚と言った5感全てを直接刺激して痛みや揺れなど、とてもリアルな危険事象の体験ができます。
—安全教育において、RiMMの強みを教えてください。
RiMMの強みは人の心情に訴えかけ、気持ちを変えることができる点です。安全性って、精神面と技術面の両方を向上させる必要があるんです。例えば、免許を取る時には運転シュミレーターを使うんですが、いつも決まったところで人が飛び出してきますよね、何回か繰り返すと覚えてしまうので、あとは慣れしかなくなる。
身を守るための安全教育なのに、慣れていくたびにどんどん他人事になって、真剣に考えなくなってしまいますよね。これでは技術は向上しても精神面はむしろ下がっていくんです。その点RiMMは精神面に影響を及ぼします。過去に起きた事故のケースを使い、VRで怖い経験を体感してもらうんですね。そうすると同じ思いをしないために技術を見直そう、向上させようという意識になります。安全教育を自分ごとにして、真剣に向き合わせることができる、それがRiMMの最大の強みです。
—安全教育の事業を展開していく上で気を付けるていることはありますか?
人の心理に働きかけるということは、かなり危険なことでもあります。やりすぎるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまうんです。行き過ぎないようにしっかりコントロールするのが大切です。
ゲームだったら倫理委員会があって表現の査定とか、年齢制限をかけますが、この分野はそのような基準がないんです。だからそこ手探りでやっていくしかない。リアルすぎて仕事ができなくなってはいけないし、あまりに現実離れしてしまっては真剣になれない。そのバランスを大切にしています。現在は危険度や恐怖の度合いを話し合い、調整をしながら各企業が求める適切なレベルの危険事象体験を提供しています。
—RiMMが提供するVR体験と通常抱くVRのイメージはだいぶ違いますね。
そうだと思います。VRの技術ってほとんどの企業がエンタメの分野でやっています。そこで得られる体験って趣味嗜好や、楽しいことなんです。でも私たちが取り扱っているのは嫌なものだし、分野も狭い。だからこそ差別化もできているんだと思います。
—RiMMを導入している企業はどんなところですか?
製造関係全般ですね。最初は電力関係でしたが、現在は物流、商社、食品、通信産業など様々な業種への導入実績も増えており、累計400社以上の企業が導入しています。労働災害はどこでも起きますからね。現在は落下事故とか漏電などのケースをVR体験のメインにしていますが、業種の幅も広がってきたので、今後は設置工事やセキュリティの場面も開発していきたいですね。安全っていう分野は本当に広いんですよ。
—RiMMはこれから大きな広がりを見せる可能性がある事業なんですね。では、会社としてのこれからの展望を教えてください。
今後は海外にもRiMMを広めていきたいと考えています。日本は安全性でいえば世界トップの国だと思うんです。RiMMという事業が成長できたのも、日本が安全性について真剣に考えてきた国だからこそなんです。
一方で日本と比較すると、海外は安全に対してあまり真剣ではないという印象でしたが、近年は海外でも「安全」に対して注目が集まっており、タイやフィリピン、マレーシア、 ヨルダンといった外国への製品輸出も始まりました。日本の「安全」ブランドのトップランナーとして、世界を相手に安全教育の重要性を広めていきます。
—最後に、松田さん自身が今後取り組んでいきたいことはありますか?
若い人たちが自由に発想し、行動していける世の中を作っていきたいなと思います。そのために若者が特定の題材について自分たちで考え、互いにプレゼンテーションをしてアイディアを競うような機会を作りたいんです。その機会を実現するために現在は島根県と連携できないか相談中です。
新しいものを生み出す時には学歴や住んでいる場所は関係ありません。だから島根県でも自由に考え行動できる人ならばいくらでも世界で活躍できるはずです。そういった機会を通して、将来的に若い人たちが1人でも多く、新しいものを生み出す喜びや、最先端の技術の道に興味を示してくれたらいいと思っています。